SWEET HOME CHICAGO(1) (ワイドKC)

大ヒット入浴マンガ『テルマエ・ロマエ』の著者が夫の転勤に伴って予期せぬ形で移り住むことになったシカゴの生活を綴った随筆集です。2011年にコミック誌に連載された文章を集めて一冊にしています。ポルトガルに暮らしていた著者が新大陸に転居することになったのは2010年。その大陸をたがえての引っ越し狂想曲から、アメリカにおける高カロリーで大味の食事しか手に入らない日々の暮らしまで話題は多岐に渡ります。ですが、文章に勢いや切れが見られません。今年の夏に同じ著者の別のエッセイ集『望遠ニッポン見聞録』を読んで、そのバランスのとれた日本人的感性が大変好ましく感じられたので、今回の書も大いに期待をもって手にしたのですが、文書の中に発見や驚きが見出せないのです。おそらく著者自身がシカゴという街になじめず、超多忙なマンガ家生活の中では地元シカゴの人々との満足な交流も得ることができないでいることが、文章に活力がない原因ではないでしょうか。ヨーロッパ人のアメリカに対する抵抗感のようなものが、あまりうまくない形で文章ににじみ出てしまっているようで、なんともとっつきにくいのです。よく知らない街のことを悪く書くことは誰にでも出来るものですが、そうした文章で商売をすることはないというのが私の率直な感想です。著者にはもう少しじっくりとシカゴと切り結んだ上で、その独特の感性を発揮した文章でかの街を鋭く描いていってくれることを期待したいと思います。